歯科特殊健診(歯牙酸蝕症健診)
有害化学物質(塩酸、硝酸、硫酸など)を使用する職場で働く方
歯科特殊検診
Special health check
● 歯科特殊健診とは
「歯科特殊健診」とは、特定の職場環境で働く人々が口腔の健康を維持するために行う特別な歯科健診のことです。
川崎市歯科医師会 産業歯科保健部委員会は、令和4年10月の労働安全衛生法第66条第3項改正に伴い、歯科特殊健診に関する問い合わせの増加を見込み、準備を進めてきました。
まず、川崎市歯科医師会会員(以下「川歯会員」)への周知として、事業所からの問い合わせ対応方法を案内し、産業歯科保健委員会では歯科特殊健診に関する研修を開始しました。この過程で日本産業衛生学会にも入会し、委員全員が同じ講演を受講、意見交換を行うことで理解を深めています。
こうした基礎づくりを経て、同委員会は歯科特殊健診の体系的な制度設計に着手しまし、他県の歯科医師会の事例を参考にしながら、川崎市における歯科特殊健診の手引きを完成させました。現在は、同委員会所属診療所での健診体制と、複数社に対応するための出向体制を整え、健診活動を実施しています。
● 歯牙酸蝕症
強酸を扱う現場では「歯牙酸蝕症(さんしょくしょう)」という病気のリスクが高くなります。これは、強い酸によって歯の表面(エナメル質)が溶けてしまう病気で、知覚過敏(冷たいものや熱いものがしみる)、歯の変色、歯がもろくなるといった症状が現れます。放置すると、食べ物をうまく噛めなくなったりすることもあります。
このため、被健診者(検診を受ける人)の歯の変化を定期的に確認するため、前歯の写真撮影を必須とし、委員会内で診断基準の研修も行っています。
対策
事業所における酸蝕症を防ぐためには、以下の対策が有効です。
・職場環境の管理
酸蝕症を防ぐためには、職場環境を適切に管理することが重要です。
・個人防護具の着用
強酸を扱う現場では、個人防護具を着用することが必要です。
・定期的な歯科健診
定期的な歯科健診を通じて、歯の変化を早期に発見し、予防することが重要です。
・口腔衛生の維持
歯や口の健康管理を徹底し、口腔衛生の維持に努めることが求められます。
・教育と研修
事業所での教育や研修を通じて、労働者の口腔衛生に対する意識を高め、適切な対策を講じることが重要です。
● 産業歯科医について
産業歯科医の概念は、産業構造の変化とともに発展してきました。日本では高度経済成長期以降、化学工業や製造業が発展する中で、有害物質による労働者の健康被害が社会問題となりました。1972年に労働安全衛生法が制定され、産業医制度が確立されたものの、当初は歯科医師の役割は明確に規定されていませんでした。
1980年代以降、鉛やクロム化合物などの有害物質が口腔内および顎骨に与える影響が明らかになり、歯科的観点からの健康管理の必要性が高まりました。このため、特定の有害業務に従事する労働者に対して歯科健診の義務化が進められ、産業歯科医の役割が徐々に認識されるようになりました。
2000年代には、産業歯科医の必要性がさらに強調され、労働安全衛生規則の一部改正により、化学物質管理や労働者の口腔健康管理に関する規定が強化されました。これにより、産業歯科医は職場の労働環境改善において欠かせない存在となっています。

● 産業歯科医の概要
産業医は労働安全衛生法により職務が明確に規定されていますが、産業歯科医については労働安全衛生法ではなく、労働安全衛生規則(安衛則)第14条の見出しにその言葉が記載されているのみであり、安衛則の条文中にも明確な規定は存在しません。しかし、労働安全衛生法第66条第3項には次のような規定があります。
「事業者は、有害な業務で、政令で定めるものに従事する労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、歯科医師による健康診断を行わなければならない。」
この規定に基づき、歯科特殊健康診断(歯科特殊健診)の実施において、産業歯科医としての役割が重要視され、立場が確立されています。
● 産業歯科医の役割
産業歯科医は、歯科特殊健診の実施だけでなく、職場における口腔健康管理や労働環境の改善にも貢献しています。具体的には次のような役割があります。
【有害業務の健康影響評】化学物質や粉塵などが口腔健康に与える影響を評価。
【予防措置の提案】職場環境の改善や予防策の提案を通じて、労働者の健康維持に寄与。
【健康教育の実施】労働者への口腔衛生指導や健康教育を行い、自己管理能力の向上を支援。
● 川崎市歯科医師会の取り組み
川崎市歯科医師会では、産業歯科医の重要性を認識し、歯科特殊健診の体制を整えるとともに、産業歯科医の役割をさらに確立することを目指しています。また、地域の事業所と連携し、労働者の口腔健康維持と労働環境の改善に貢献しています。
● おわりに
これらの取り組みにより、酸蝕症の予防と労働者の口腔健康維持が可能となります。川歯会員と協力して、この活動をさらに広げていくことを目指しています。


